決済代行業者の逮捕から見えてくるオンカジと警察の今後の展開

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オンラインカジノにまつわる逮捕のニュースが世間を賑わせる機会が少しずつ増えてきている。

オンラインカジノといえば、これまでは「なんとなく悪そう」とさえ思われていなくて、「そもそも、知っている人がいない」というレベルのマニアックなアングラ文化であり、隠されたものであった。

だが、昨今のニュースでの取り扱われ方を見ていると、完全に陽の目を見たというか、オンラインカジノもついに「白日のもとにさらされた」という感が否めない。

現在のオンラインカジノにまつわる逮捕で、とりわけ注目すべきなのは「決済代行業者」の逮捕である。

オンラインカジノの逮捕においては、現在のところプレイヤーの逮捕というものは「おまけ」程度のものでしかなく、ニュースが大々的に報じられるのは決済代行業者などの逮捕の場合に顕著だ。

入出金を代行する決済代行業者の逮捕が、プレイヤーの逮捕のケースに比較して注目に値するのは、「警察が今後オンラインカジノをどのように取り締まっていくか?」という思惑が、これらの代行業者の逮捕から見え隠れするためである。

オンラインカジノを賭博場開帳図利罪で検挙することの難しさ

オンラインカジノを賭博場開帳図利罪で検挙することの難しさ

オンラインカジノはその存在自体が一応は賭博場開帳図利罪に抵触している。

だが、その明らかな違法性にも関わらず、警察がなかなかオンラインカジノを摘発できずにいるのは「オンラインカジノを賭博場開帳図利罪で検挙することがほとんど不可能である」というのっぴきならない事情があるためだ。

賭博場開帳図利罪というのは「自分の利益を図るために自らが主宰して賭博場を開設する罪」である。

これは要するに、公営ギャンブル以外の違法ギャンブルの「胴元」を逮捕するための罪だ。

オンラインカジノというのは、存在自体がこの賭博場開帳図利罪に抵触しているのだが、それでいて警察がこの賭博場開帳図利罪にてらしあわせてオンラインカジノの胴元を検挙することはできない、という仕組みになっている。

なぜか?それは、「オンラインカジノの胴元が海外に拠点を置いている」ためである。

もし、オンラインカジノの胴元が日本国内に拠点を置いて事業を展開していた場合は、日本国の刑法で定められた賭博場開帳図利罪を適応することができる。

だが、オンラインカジノの運営が海外に拠点を置いている限り、警察は日本国の刑法でしかない賭博場開帳図利罪をオンラインカジノに適応することはできないのだ。

たとえば、ラスベガス、韓国、マカオなどで運営されているカジノ施設は「その国」の法律によって合法のギャンブルである。

それらの海外カジノの胴元を「日本国内では違法のギャンブルだから」といって、日本国でしか通用しない刑法で裁くことはできない。それと同じことがオンラインカジノでは起こっている、というわけだ。

なお、賭博場開帳図利罪で逮捕することが可能なのは、せいぜいが「インターネットカジノ(インカジ)」と呼ばれている、日本国内で事業を展開している店舗型の違法カジノだけである。

日本国内の賭博場開帳図利罪では胴元を叩くことができない。これがまず警察がオンラインカジノの逮捕を巡って抱えることになる一つ目のアポリアである。

賭博罪でプレイヤーを逮捕することは根本的な解決にならない

海外を拠点にウェブ上に賭場を持つオンラインカジノではあるが、それを日本国内に住む人間が日本国内からのアクセスで遊んだ場合は、賭博罪を犯すことになる。

だが、賭博罪でプレイヤーを逮捕することは「オンラインカジノ対策」の根本的な解決にはならない、というのが実際のところだ。

賭博罪というのは基本的には「プレイヤー」に対して適応される罪であり、オンラインカジノの利用者が逮捕される場合は、この賭博罪での逮捕ということになる。

だが、賭博罪によるプレイヤーの逮捕というのは「ほかのプレイヤーへの見せしめ」程度の効果しかなく、より大きな問題である「オンラインカジノの胴元」を叩くところまでは踏み込むことができない。

賭博法というのは、本来は「現実空間の賭場」がある違法ギャンブルを取り締まるために考案された刑法であり、より大きな目的である「賭博場開帳図利罪による胴元の摘発」のついでに十把ひとからげに違法ギャンブラーをまとめて検挙する程度の目的しか持っていない。

いくら違法ギャンブラーを摘発したところで「根っこ」を叩かなければほとんど意味がない。これはオンラインカジノのプレイヤーを逮捕する場合においても、ほとんど事情は変わらない。

旧来の「現実空間の賭場」においては違法ギャンブラーを逮捕することで「胴元検挙」までの糸口をつかむことも可能だったのだが、オンラインカジノの場合は「賭博場開帳図利罪」での検挙が不可能である以上、このような「糸口をつかむ」という目的すら達成できない。

「オンラインカジノのプレイヤーをいくら逮捕したところで根本的な解決がのぞめない」ということは、対オンラインカジノにおける警察が抱えるもう一つのアポリアであるだろう。

賭博場開帳図利罪や賭博罪では達成できない目的のための幇助罪

賭博場開帳図利罪や賭博罪で警察の目的である「根っこを叩く」が不可能である以上は、それらの罪状以外の刑法を応用する「第三の道」を考えなければならない。

そこで警察が考え出し、導き出したのが「幇助罪による決済代行業者の逮捕」という道なのである。

「実行犯に一定の手伝い手助けした者を幇助犯とする」という罪状であるこの幇助罪を利用して、決済代行業者という「運営とプレイヤーの中間地点」に容疑をかけ、改めて常習賭博罪としても叩くことで、オンラインカジノの本体を根こそぎひっくりかえすことはできなくても、オンラインカジノの本体に大きなダメージを与えることができる。

日本のプレイヤーを搾取したいと考えているオンラインカジノの海外運営にとっても、オンラインカジノで遊びたいと考えているプレイヤーにとっても「決済代行業者」の存在は大きい。

決済代行業者というのは「オンラインカジノとプレイヤーをつなげるライフライン」であり、そのライフラインが断たれてしまったら、オンラインカジノは日本人相手に儲けることができず、日本人プレイヤーはオンラインカジノで遊ぶことができないのだ。

警察が着目し、幇助罪によって狙ったのはこの「ライフライン」の切断であり、胴元よりのものに賭博罪を適応していくための工夫である。

オンラインカジノはほぼ例外なく海外に拠点を持っているのだが、「オンラインカジノと提携している決済代行業者」は日本国内に拠点を持っている場合がほとんどだ。

この「国内に事業の拠点を持つ幇助犯」に目をつけたのは、まさに警視庁の慧眼といったところだろう。

また、幇助罪で容疑をかけた決済代行業者を検挙することは、「賭博罪でのプレイヤーの逮捕を、胴元へと影響させることができる」という点において、前述した第二の難点を解決するプランだともいえる。

賭博罪でオンラインカジノの違法プレイヤーを逮捕し、そのプレイヤーがどの決済代行業者を利用していたかを調べあげれば、胴元を直接叩くことはできないにせよ、相手が国内業者であれば「ライフライン」を切ることができる。

警視庁は今後、この地道な「ライフラインの切断」によって、オンラインカジノをじわじわと追い詰めていくという展望を持っていると推察できる。

もちろん、海外に拠点を持つ決済代行業者というような逃げ道はすぐに考えられ実行されるだろうが、日本国内で安全に「利ザヤ」を得られなくなることによって、日本人の協力者が大幅に減少することが、海外拠点のオンラインカジノ側にとっても相当の痛手であることは間違いないだろう。

オンラインカジノの逮捕をめぐる状況のまとめ

オンラインカジノの逮捕をめぐる状況を「決済代行業者」に注目することで見えてきたことを、最後に簡単にまとめていこう。

まず、「オンラインカジノの胴元を検挙する」ということは、オンラインカジノの運営拠点が海外にある限りは、おそらく今後もできないままだろう。

決済代行業者などの「オンラインカジノと日本人プレイヤー」をつなぐライフライン的な国内業者は、幇助罪の活用により、厳しい状況に追い込まれることと逮捕の増加が予想される。

賭博罪が適応される日本人の違法プレイヤーについては、これまでと同様「遊ぶだけで罪を犯す」という状況は変わらない。

だが、「ライフラインとのつながり」において逮捕の意味が変更された以上、「貴重な情報源」や「幇助の証拠品」として、プレイヤーの逮捕のハードルが下がり、危険度が上がっていくことになるだろう。

「オンラインカジノの根絶」という最大の目標を持っている警察にとって、「目標達成のための方法」が整ってきたのであれば、それに役立つ末端プレイヤーの逮捕を躊躇する理由もなくなってしまう。

「オンラインカジノで遊ぶという選択は、いま、もっとも危険な時期に突入した」と結論づけたとしても、決して性急な結論とはいえないのが現状だろう。